意識の構造

次にユングの考えた人間の意識の構造の段階(顕在意識から個人的無意識、集合的無意識)というものを、神秘行的理論も絡めて説明していきましょう。

三つの意識の段階

顕在意識

人間は普段、五感を使って外界の情報を取得、そして、それらを意識の中で言語による思考を用いて、次の行動を決めている事が多いものです。こういった人間が通常認識、自覚している意識を心理学では「顕在意識」と呼びます。この意識は社会生活を営むにあたって、論理的に物事を判断処理しながら常に働かせているものであり、また、この意識は人間が一番認識しやすく、いつも自覚しているものなので、人間はこの意識のみが「自分」なのだと誤解しやすいものです。

無意識(潜在意識)

しかし、心理学では人間には、誕生から現在まで五感や様々な方法を通して得てきた情報を記憶している「無意識(あるいは潜在意識)」という広大な範囲の意識の領域があるとしました。

集合的無意識

そして、ユング心理学ではさらに、その奥に個々の人の意識だけに留まらない、人間自体が共通して生まれ持つ「集合的無意識(普遍的無意識とも呼ぶ)」と呼ぶ領域があるとしたのです。

この「集合的無意識」とは、ユングの元々の考えとしては、人間という生物種が生まれた時から共通して持っている「型」みたいな概念でした。これは、DNAに例えると解りやすいかもしれません。人間は誰しも、その身の細胞の一つ一つにDNAを持っていますが、それを認識することは無いものです。

しかし、DNAは人間にとって、その生物としての在り方を決める根本的なものです。集合的無意識も同様に、普段は認識することは出来ないのですが、あらゆる人間に生まれながらに存在し、その意識の奥底で各個人の意識の在り方に影響を与えるものだとしたのです。

集合的無意識の神秘行的解釈

そして、この集合的無意識という理論は神秘行界を通して更に広まることとなります。神秘行界では、古くよりアニマ・ムンディやアストラル界という概念が提唱されてきました。これらの概念は簡単にいえば、すべての人間たちが意識の奥底で共通する霊的な媒介を通して繋がっており、様々な情報やエネルギーをやりとりしているというものです。

このすべての人々は意識の奥底で共通して繋がっているという神秘行的概念が、当時の新しく生まれてきた科学的学問である、心理学で提唱された集合無意識という概念と似通っていたため、集合無意識は多くの神秘行界の関係者達に発展解釈され受け入れられたのです。

海に例えた集合的無意識の解釈

この考え方は海の上に浮かぶ小島に例えて説明される事もあります。下の図を参照してください。

上の図の島一つ一つが、人間各個人個人の意識領域を示した図だと思ってください。海の上に少しだけ見えるのは、各人の通常の意識である顕在意識。海の下に存在する大きな領域が無意識です。もし、人間が普通に船などに乗って海上から見渡すと、そのままで見えるのは島の部分だけでしょう。しかし、ひとたび海中に潜って見てみると、島はその下に大きな土地を持っていることが解ります。

人間の顕在意識と個人的無意識もこれに似たようなものと考えてください。そして、その島は一番下で他の島、すなわち他人の個人的意識と地続きで繋がっています。この島と他の島を結びつける一番下の土地が集合的無意識というものだと理解してください。そして、上にも書きましたが、神秘行界ではこの集合的無意識という場で、様々な人が繋がり、いろんな情報をやり取りしているという理論を提唱しているのです。

顕在意識と個人的無意識の関係をパソコンに例える

また、人間の意識の構造をパソコン(PC)の構造に例える考え方もあります。PCというものは、頻繁に扱う情報は、メモリという、すぐに情報が取り出せる装置に記録しています。しかし、メモリは、その性質上データを記録しておける容量がとても小さい装置なのです。

そのメモリに対して、ハードディスクという装置があります。こちらは、すぐにはデータを取り出せないものなのですが、とても記録できる容量が大きいものです。この為、PCでは、あまり使わなくなった情報は、ハードディスクという装置に記録してメモリから消すという処理を常時行います。そして、もしメモリに無いデータが必要になったら、その都度、ハードディスクの中身を探してデータをメモリへと呼び出してくるという方法を取っているのです。

人間の意識の構造や物事に対する処理方法も、これにかなり似通っているといえるでしょう。人間の顕在意識というものはメモリと似ており、その扱える情報量がとても少なく、そのため、外界から入ってきた情報のうち必要ないものや、少し前以前の出来事はすぐ無意識=ハードディスクの中へと押しやってしまいます。しかし、必要が来ると、その無意識の中から必要な事項のみを顕在意識に取り出し、物事を処理していくという方法が行われているのです。

ネットに例えた集合的無意識の解釈

そして、最近のPCは単独で動くだけではなく、ネットを通して他の無数のPCとも繋がり、情報をやり取りするようになりました。実は、人間の意識の奥、集合的無意識もこのネットと似た機能を持っているといえるのです。

ただ、通常の人間の顕在意識は、この例えで言えば、ネットで使用されているプロトコル(言語)に例えられるものを理解することが出来ません。そのため、この集合的無意識(ネット)の情報を有効に利用することが出来ないのです。しかし、この集合的無意識(ネット)の情報を得ることは、自己というものを本当に知るための神秘的自己探求では、必要不可欠な事柄です。

その為、神秘的自己探求では、このプロトコルを扱うための、変換プログラムを意識に組み上げていくという事に例えられる訓練を、実際に自分の意識を用いて行うのです。

まとめ

以上、ここまで説明してきましたが、読者はこれらの例えを通して、少しでも人間の意識の構造についてイメージを持ってもらえたでしょうか?。


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