元型

次にユング心理学の特色である「元型」について簡単に述べていきましょう。元型とは人間が生まれながらに、そのこころに持っている幾つかの「型」あるいは、機能みたいなものを指しています。

外的な意識としての元型

元型の中でも、まず一番人間が日常でも頻繁に体験しているのが外的な意識としての元型である「自我」「ペルソナ」「シャドウ」になります。

「自我」

「自我」とは、普段われわれがこうしたいとか、あれにたいして自分はこう思う、とか考えている、この「自分」という意識を指します。

「ペルソナ」

「ペルソナ」とは本来、「仮面」を意味する言葉ですが、ユング心理学では人間が社会で暮らしていく時に、他者に対して接する役割を演じるために用いる機能を意味する言葉としました。例えば、ある女性は、その両親に対しては「娘」というペルソナ(仮面)をかぶって接するでしょう。また、他にも先生に対しては「生徒」。友達に対してはその「友人」。子供に対しては「母親」といった感じで接するでしょう。

人間というものは本来一人の人物でありながら、他の人に対しては、こういった形で様々な顔を使い分けて接するものです。その様々な顔を象徴的にあらわした仮面の事を「ペルソナ」というのです。

「シャドウ」

「シャドウ」とは、その人の心の中に潜む、自我とはもう一つの別の自分を意味します。それは、表に出ている自分と対極にある、今まで抑圧していた「影」としての自分を指すものです。

内的な意識としての元型

自我からシャドウまでの人間の機能は、社会に対応するための「外的」な意識といえるものです。外的な意識は普段から人は経験しているものなのですが、逆に何らかの特殊な状況、恋愛や夢などの無意識の状況で、人間が体験するのが「アニマ」「アニムス」という「内的」な意識としての元型です。

「アニマ」と「アニムス」

人間は生物として生まれたときに、その性別が決定されてしまいます。そして、この社会で暮らしていく以上、外的には、社会が求めるその性の役割を果たして生きていく事になります。その為、外的な心の動きは、男性ならば男らしく、女性ならば女らしく作り上げられるものです。

しかし、人間の生命体としての心は本来「全」的なものであり、実はその対極にある性としての力、異性的な心の作用を常に求めて生きているのです。恋愛などは、この作用が人生にあらわれる最たるものでしょう。

この異性的な心の作用は「アニマ」「アニムス」と呼ばれます。このうち「アニマ」は男性の中に潜む女性的な心、内なる女性像を意味します。対して「アニムス」は女性の中に潜む男性的な心、内なる男性像を指します。

種としての元型

ここまで説明してきたのは人間の個人個人にある元型、心の作用でしたが、以後は人間という種族全体にある元型の段階へといたります。

「トリックスター」

まずは「トリックスター」と呼ばれる元型から。これは、この世界の構成された秩序を面白半分に引っ掻き回す存在としてイメージされるものです。秩序に安穏としているものにとっては、これほど苦痛をもたらすものは無いでしょう。しかし、トリックスターは、決まりきって硬直してしまった世界に、新しい可能性をもたらす存在でもあるのです。

「グレートマザー(太母)」

次に説明する元型は「グレートマザー(太母)」と呼ばれるものです。これは、「母」としてのイメージを指しますが、しかし、人間個人的な母としてのイメージに留まらず、生命体としての「母」のイメージまで含めたものです。全ての生命をはぐくみ育てる光としての面だけでなく、生命体が死を迎えた場合、その全てを飲み込むという、闇の面も持つ偉大なる「母」なのです。

「オールド・ワイスマン(老賢者)」

最後に「オールド・ワイスマン(老賢者)」として呼ばれる元型が存在します。これは、基本的に、年老いた賢者として、その秘めた叡智の力を持って、全ての人を導く存在としてイメージされるものです。根源から流れ出ずる、この世界を創り上げる創造の意志としての溢れる力の顕現が人間的イメージを纏ったものでもあります。


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