ケルビムについて<IMN魔術基礎知識08>
ケルビムとは一般的には天使の一種として考えられている存在である。西洋の神秘伝統では、このケルビムを主に2つの見方に分ける。一つはキリスト教的な見方で偽ディオニシオスという5世紀頃の人物が書いたという「天上位階論」に出てくる天使位階の、第2位を占める「智天使」としての意味。もう一つは、ユダヤ教的な見方で捉えられる「主」に仕える霊的存在:ケルビムとしての意味合いである。ここでは後者の方を学習の対象とする。
ケルビムの言葉の意味
「ケルビム」はヘブライ語ではKRVBIMと綴られる。このうち、最後の2文字(IM)は、ヘブライ語では複数形(〜達)を意味する言葉であり、ケルビムとは本来は「ケルブ達」という意味合いになる。この「ケルブ」とは、古代ヘブライでは神に仕える霊的存在を示す言葉であったとされる。
近い時代の古代アッシリアやバビロニアで使われていた「強力、偉大、祝福された」と訳される言葉karabuと同じ語源の言葉だとの説もあり、いずれにしても、ケルブとは神に仕え神を守護したり神を運んだりする強力な霊的存在を指しているものだったと見られている。
旧約聖書のケルビム
旧約聖書でケルビムが初めて登場するのは、「創世紀」第3章24節である。アダムの楽園追放後、主によって炎の剣とともに楽園を守る存在として出てくる。−「神は人を追い出し、エデンの園の東に、ケルビムと、回る炎のつるぎとを置いて、命の木の道を守らせた(口語訳聖書より)」−。
ケルビムはその後も旧約聖書に度々登場している。その多くは主を守護する存在や、主の座す乗り物として登場する。モーセの十戒をおさめた箱の上に2体のケルブの像が設置されていたのは有名な話である。
「四」の守護者
現在、西洋の神秘伝統では、ケルビムは「『四』の守護者」としての認識が強い。様々な「四」つに分類される事柄に関連付けられる存在としてよく捉えられるのだ。この認識を決定づけたのは旧約聖書のエゼキエル書である。エゼキエル書では、その文中に特異な姿を持つ4つの生き物の存在が描かれる。その存在は各々四つの顔を持ち四つの翼を持つ。その四つの顔は前方に人の顔、右の方に獅子の顔、左の方に牛の顔、後ろの方に鷲の顔を持っていたとしている。エゼキエル書では、この存在をケルビムとしているのだ。
四体のケルビムが下方で動かしている。画像は「イメージの博物誌−
ユダヤの秘儀」より)
このエゼキエル書のケルビムの四つの顔の由来は黄道十二宮の固定宮から来ているとされている。その対応としては、人=宝瓶宮。獅子=獅子宮。牛=金牛宮。鷲=天蝎宮になる。
このうち、鷲が天蝎宮に対応するのを疑問に思う学徒もいるかもしれない。これについては星座の天蝎宮には鷲は描かれていないが、古くより、サソリをついばむものとして鷲が描かれることが多かった為、鷲がサソリの化身として考えられていた事がある。また錬金術的には蛇はサソリに進化し、サソリは鷲あるいは不死鳥へと進化するという考え方もある。
これらの事もあって、サソリと鷲は関係の深いものとされ、ケルビムの四つの顔の一つとして鷲が使われるようになったと見られているのだ。
このエゼキエル書に出てくる四つの動物が複合された姿形は、古代アッシリアの神殿の門番として設置されていたラッマス(シェドゥ)やエジプト、メソポタミア、ギリシャ神話に登場する守護獣スフィンクスとも関係が深いとされる。
こちらも、人の頭を持ち、獅子あるいは牛の体を持ち、鷲の翼(エジプトのスフィンクスは翼を持ってないが)を持った存在であり、この当時はこういった存在が神を守るものとして広くイメージされていた事が考えられる。
そして「『四』の守護者」であるケルビムは、魔術に於いては特に先に学習した「YHVH」の、物質世界での生ける力、四大の統率者を示すものとして扱われる事が多い。彼らは十二宮の固定宮、あるいは変通宮を通じて作用する事になる。その簡単な対応表を以下に挙げておこう。学徒はこれについて記憶しておいてほしい。
四大 | 獣 | 十二宮 | テトラグラマトン |
---|---|---|---|
火 | 獅子 | 獅子宮 | ヨド |
水 | 鷲 | 天蝎宮 | ヘー |
風 | 人間 | 宝瓶宮 | ヴァウ |
地 | 牡牛 | 金牛宮 | ヘー |
次へ
上位ページに戻る