エノク語について<IMN魔術基礎知識13>

旧約聖書のエノク

はるか昔、旧約聖書の時代。唯一なる神への篤い信仰を抱くエノクという一人の人物がいた。ある日、その心を神に認められたエノクは、神の国へと招待を受ける。神の国での数々の遍歴を経て、やがて人間という衣を脱ぎ捨てたエノクは、神の傍にて書記を努めるメタトロンという天使になったと言われる。そして、その物語は旧約聖書の外典「エノク書」におさめられた。

ジョン・ディーとエドワード・ケリー

やがて、時代は下ってルネッサンスはエリザベス朝、イギリスに一人の偉大な博士が生まれる。彼の名はジョン・ディー(1527〜1608)。天才的な数学者にして、哲学・科学者だった彼は、その当時の公式な学問だけには飽き足らず、隠された学問であるオカルト、錬金術やヘルメス主義、カバラに深く傾倒して行くことになる。そして霊媒者エドワード・ケリーに出会ったとき、彼の運命は一大転換を迎えることになる。ケリーを通じて、彼は天使や精霊と言われる存在から、霊的なメッセージを受け取り出したのだ。

天使との交流とエノク語

まず最初に彼らの前に姿を現したのは、天使ウリエルだった。ウリエルから以降の通信のために必要な道具、七芒星の円盤の作成法などを教わった彼らは、以降その道具を使い、複数の天使や精霊から数々のメッセージを受け取っていく事になる。

天使ミカエル「今、神のシジル、またはアエメトのシジルと呼ばれるものについて語ろう。私は汝に神の力強い手と力を示すであろう。如何に彼が神秘的であるか・・・・」(「The Enochian Evocation of Dr.John dee」より)

上は彼らがミカエルという天使から受け取ったメッセージの中の一つである。彼らは上記みたいな様々なメッセージを受け取ったが、その受け取られたメッセージの中でも、とりわけ重要視されたのは、「エノク語」と呼ばれるメッセージだった。エノク語とは、このページの冒頭に記した、旧約外典「エノク書」を本来書き記すのに用いられたとも、そして天使が使う秘密の言葉だともいわれるものである。

このエノク語は後に言語学者ドナルド・レイコックによって分析され、しっかりとした文法的構造を有することが発見され、古代に実際に使われていた言語では無いのかという推測も行われることになる。

この様な数々の天使達からメッセージを授かったディーとケリーはしかし、やがて、研究対象の方向性の違いから、喧嘩別れを起こしてしまう。その後ディーは晩年、地方の小さな学校の教職におさまり、自分が体験した出来事を文書に纏め、それは大英博物館のスローン文書3189ー3191番に保存される事になる。そして、そのディーの死と共にエノク魔術は時代から忘れ去られてしまっていった。

黄金の夜明け団

しかし、1888年、イギリスに登場した結社「黄金の夜明け」(GD団)によって、再びエノク魔術は陽の目を見る事になる。しかも、ディーの残したエノク魔術はかなり雑然とした、あまり整理されてないものだったのだが、GD団で用いられたエノク魔術は再構成されなおされ、後の魔術師達の使用に十分足る、とても有用なものとなったのである。

現代のエノク語の研究

この後、現代に向けてエノク魔術の研究の方向は3通りに別れていくことになる。GD団の研究した技法を用いるもの。現代のエノク語の研究の権威、シューラーという人物が作り出したGD団の技法をさらに発展させた技法を用いるもの。そして、あくまでもディーのオリジナルのエノク語を研究するものである。

「おお汝、光の天使達よ、宇宙の西の局に住まう、TACO又はTAGCO、NHDD又はNHODD・・・」「おお汝ら、我らの全能の神に対して強力で忠実なる東の六長老達よ。同じ神の名において、我は汝に言う。ABIORO・・・」

上は、天使や六長老と呼ばれる存在の召喚の言葉である。これらの言葉は魔術師達の間ではとても力強い言葉であり、この天使などと言われる存在を呼び起こせば、魔術師の意志において現実に様々な変容を為すことが出来るとする。

天使とは?

しかし、この事を聞いたものならば、誰しも最初に一つの疑問を抱くであろう。そもそも、この言葉にて召喚される天使等という存在は一体どの様な存在なのだろうか?。

これについては昔から様々な説が出されてきた。宗教的な話を額面どおり信じ、それを神から遣わされた使者と見る説。近代になって普及してきた心理学の解釈を使い、天使と呼ばれる存在は私たちの意識の中に住む、一つの心理的機構だとする説。そしてはるか古代に滅んだアトランチス時代の生き残りだとする説等々、いろいろな事が言われているが、未だに決定的と言われる説は無いというのが現状である。しかし、天使を召喚しようとするものは、それが一つの「実在する存在」である事を如実に感じるのは事実であろう。

上図 偉大なる表
(1587年4月20日、ラファエルにより改良されたもの)

上図 黄金のタリスマン
(エノク魔術においての護符。)

偉大なる四方点の円
(聖霊の線から抜き出された、神の4つの三つ組みの名前を12の旗に描いたもの。)

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