ヘルメス学的カバラの知識<IMN魔術基礎知識06>

ここでは、現代の魔術の教義に大きな影響を及ぼした、ヘルメス学的なカバラの知識について記しておきたい。多少難解であるため、まだ、魔術を学習し始めたばかりの学徒にとっては理解出来ないところもあるだろうが、折に触れて読み返してみれば啓発されるところがあると思う。

カバラの4種の分類

基本的にカバラとは、文字と数値の関係を基盤に発展した、この世界の隠された秘密を解き明かそうとする実践的象徴体系であり、通常、その方法は次の4種に分類される。

・実践的カバラ
・文字で表されたカバラ
・教義的カバラ
・書かれざるカバラ。

実践的カバラ

第1の実践的カバラは、秘教伝統を中心とした実践的手法である。

文字カバラ

第2の文字カバラは、以下の「ゲマトリア」「ノタリコン」「テムラー」といわれる、3種の方法から成る。

ゲマトリア

まず「ゲマトリア」とは、ヘブライ語の同数値を有する、ある語句とある語句は密接な関係を持つという考えから成り立っている技法である。詳細な説明は後にするが、例えばAという文字が1とする。Bという文字が2、Cという文字が3とする。この場合、「AB」という単語はCという文字と等価であると考えるのだ。いわば暗号の一種といえよう。

ノタリコン

次の「ノタリコン」とは、2種類の形態を有する省略法であり、その一つは、ある文からその頭文字と最後尾の文字を取り出して、言葉を作るもの。もう一つはその反対に、ある言葉を、一つの文章の語の頭文字あるいは最尾字の集合とみるものである。

テムラー

最後の「テムラー」とは、文字の置換法で、一定の法則に従って、ある文字が他の文字に変換されるものである。以上の文字カバラは、聖書などの聖典に隠された秘儀(暗号)を読み解くために、よく使われる技法とされる。また、現在ではこの教義からカバラ数占いという占術まで出来ている。

教義的カバラ

第3の教義的カバラは、哲学的神学的伝統である。カバラとは本来、ユダヤ教の宗教的な以下の命題を解決するために考案されたものだった。

・主の本質と象徴・属性
・宇宙の発生、或いは天地創造について
・天使と人間の創造
・天使と人の運命
・魂の性質
・天使、悪魔、四大の性質
・啓示された法の意味
・数字の高邁なる象徴
・ヘブライ文字に含まれる特別な神秘
・対立物の均衡。

以上の教義的カバラの教えは非常に複雑であり、一般に次の3つの概略に簡略化される。

・七つのカバラ的概念
・創造の四世界
・生命の樹。

七つのカバラ的概念

七つのカバラ的概念は次の様になっている。

・いわゆる唯一神アイン・ソフは世界の直接的創造主ではない。万物は根源的な源から、セフィロトに象徴される段階的流出を通して現れた。つまり、神は自らを顕現させたわけである。そして、その流出の最下点は物質の世界である。しかし、物質を悪しきものと考えてはいけない。それもまた、神の顕現の一面であるから。
・私たちが感知し、認識する事は全て生命の樹に分類が可能である。それは生命の樹とは、あらゆるものの、原形的イメージで構成されているからである。
・人間の魂というのは、今現在住んでいる、物質世界の起源より前には、より上位の世界に住んでいた。
・受肉以前の人間の魂は、後にどの肉体に入るかを決定するための上位の「大広間」に棲んでいる。
・個々の魂は、物質的肉体でのその一生を終えるまでに、無限の神に再吸収され得るまで浄化していなければいけない。
・人間の魂の浄化は一度の人生では、その浄化は難しく、何回かの生を経なければいけない事が多い。これは「ギルグリム」と呼ばれる観念である。
・この世界にある全ての魂が、皆、完成に至ったとき、悪しき天使達も呼び起こされ、そして、生きるもの全ては、唯一なる神からの愛の接吻を受けて、神聖存在へと変化する。そして、これ以降、顕現していた宇宙は存在しなくなる。また、新たな世界が始まるまで。

創造の四世界

創造の四世界とは、「神」が自分自身をこの世に表出せしめるに通る、次の4つの段階を指す。

・アツィルト界 
・ブリアー界
・イェツィラー界
・アッシャー界

よく誤解される事だが、これらは別々の世界では無く、連続する世界であり、重なり合っている世界である。例えて言えば、今、この場所に満ちている空気は、水素と酸素から成り立っているが、水素界と酸素界が分かれて成り立っているわけではない。そういった感覚で捉えてもらえば理解できるだろうか?。

また、それぞれの世界に、それぞれの「生命の樹」があり、これらはとても複雑な様相を呈している。以下に各世界の概略を述べよう。

アツィルト界

まずアツィルト界とは、元型、神聖なる光輝、全ての始まりであり、まだはっきりとしたものを持たない、人間にとっては観念的な世界というものである。しかし、ここにはもう既に全ての設計図が含まれている。芸術家が絵画を描く作業に例えるならば、これから何かを描こうという「意志」を持った段階を世界と例えているといえるだろう。また、この世界には「神名」といわれる神の根源的な力の象徴というものが対応するとされている。

ブリアー界

次のブリアー界は、創造の世界、はっきりとした方向性を持った力が動きはじめる段階である。何かを作ろうとする意志が活発に動きまわっている世界であり、これを先の芸術家に例えるならば、何を描くかを決め、画用紙の上にこれから描く絵が浮かび上がっているような感じの段階であろう。また、この世界には「大天使」というものが対応しており、これは「個」としての純粋な強力な力の象徴である。

イェツィラー界

次のイェツィラー界は、形成の世界、様々な力が入り交じって、活発にものを形作っている段階である。これを先の芸術家に例えたらば、画用紙に絵筆で実際に絵を書いている段階といえるだろう。また、この世界には「天使団」が対応する。この存在は「グループ」として、様々な事をなす力の象徴である。

アッシャー界

最後のアッシャー界は現実の世界。私たちの肉体や物質が属している段階とされる。他の三界よりも濃密、かつ固いものから成りたつ。これを先と同じく芸術家に例えるならば、絵が完成した段階になるだろう。また、この世界には「精霊」が対応する。

クリフォト

そして、アツィルトから放たれた神聖なる光輝は、幾つもの段階を経ると、やがて歪んだ光となる。その光の行き着く世界が「クリフォト」といわれ、ここには、いわゆる「悪魔」が対応する。

生命の樹

「生命の樹」については、当サイトの別の場所で詳しく記す。

書かれざるカバラ

そして、第四の「書かれざるカバラ」は、その名の通り、口伝によって伝えられた秘儀中の秘儀といえるもので、ここでは書けるものではないだろう。


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