魔術の「体系」による分類

魔術を研究する団体や人物というと、一般的にはファンタジーな話の中にしか存在しないと思われることが多い。しかし現実の世界でも、実は古くからそういった団体や個人の様々な逸話が伝わっているのだ。ただ、古代から伝わるそれらの話は本当かどうか解らないものも多い。

しかし、19世紀から現在に至るまでは、様々な霊的知識、カバラ魔術や錬金術、占星術などを研究した魔術的な団体や魔術師と呼ばれる人物についての確実な資料が存在するのだ。そして、そういった団体や個人は魔術に関する様々な知識や、先に紹介したような様々な魔術の方法を複合した独自の体系(システム)というものを作り出している。ここでは、そういった魔術の体系の紹介を行おう。

黄金の夜明け系魔術

1888年、イギリスに出来た「黄金の夜明け団(以下GD)」という団体によって作られた魔術大系である。現在、一般的に西洋で広まっている現実的な「魔術」というものを調べようとすると、このGD系魔術に行き当たることが多いであろう。このGD系魔術がそれほど広く知られている理由は次のようなものとして考えられている。

18世紀頃まで西洋には様々な魔術知識はあっても、殆どがキリスト教の弾圧を逃れるため、断片的にしか伝わっていなかった。その為、魔術に興味を持ったものが「魔術師」になろうと希望し、本気で関連知識を調べようと思っても、とても難しいものがあったのである。

それを、このGD団はその当時まで西欧に伝わっていた様々な魔術知識を集め、「生命の樹」という図形を元に初心者に学習しやすい体系的教育システムを構築。このシステムにより魔術師志願者は初心者の段階から達人に至るまで段階的に、とても理解しやすい魔術学習が出来るようになったのだ。

また、この団は元々、秘密結社として活動していたのだが、ある団員により、その学習システムの知識文書がほとんど、一般に出版される事になった。それまでの西欧神秘伝統の歴史上、一人の志願者を魔術師として育て上げることを目的とした魔術結社の教育文書が一般にも出回るといった事は、ほぼ皆無だったため、このGD団はその資料的有益さからも、西洋神秘伝統界で非常に注目される存在となったのだ。

クロウリー系魔術orマギック(Magick)

アレイスター・クロウリーという人物によりはじめられ、その追随者、研究者によって今でも発展している魔術体系を指す。クロウリーはその人生の魔術学習の初期において、上記のGD団に入団した為、彼の大系はGD団の魔術の影響も色濃い。

しかし、団を離れた後の彼自身の研究により東洋の神秘的教義なども積極的に取り入れられ、「真の意志」の下に魔術を研究しようという大系となった。また、彼は魔術(Magic)という言葉が、手品や奇術なども含まれた曖昧な言葉として使われているため、これらと区別するために、意識制御としての魔術を「K」を最後に加えた言葉(Magick)として呼ぶ事を提唱したのである。

ゾス・キア・カルタス (Zos Kia Cultus)

孤高の魔術師、A・O・スペアによって提唱された大系で、それまでの魔術とはかなり異なるタイプの魔術といえるだろう。宇宙全ての根源的な源を「キア」、人間をその力の運び手である統一体「ゾス」と呼び、このゾスがキアを完全に制御するとき、莫大なエネルギーが生まれるという考えを根本に置いた魔術体系である。

混沌魔術 (Chaos magick)

ピーター・J・キャロルという魔術師により提唱された体系である。当初、その過激さのため、一般の魔術師からは倫理的に問題があるとされていたが、現在はより洗練され、多くの魔術師たちを魅了している。旧来の魔術体系のドグマに囚われず、実効力のある魔術を追求しようとするものだとされているが、しかし、キャロルの本をよく読むとわかるが、彼は実際にはGDなどのこれまでの魔術体系を熟知した上で、この体系を提唱しているのだ。

例えてみれば、彼の提唱している体系はGDなどの体系が小学校みたいな義務教育程度のもの、この混沌の体系を大学での高等教育だと考えているものだと理解してもいいだろう。その為、この混沌魔術の体系を真に目指すものはGDの教義などは簡単に記憶・理解してしまうほどの高度な知性が必要になるであろう。

高等魔術 (High Magic)

一般的に「魔術」と呼ばれる言葉がおまじないや手品から哲学まで、様々なものを含む言葉になってしまっているのにたいし、現在、使われる「高等魔術」という言葉は、「黄金の夜明け」団や、クロウリー、そしてその流れを汲んで理論的・実践的に整備され直された、システマティックな意識制御の技術大系を指す言葉となっている。

低次魔術 (Low Magic)

上にも書いたように「高等魔術」がGD伝統から来たシステム的に整備された魔術を指す言葉として捉えられるのに対し、「低次魔術」は、一般に伝わるおまじないのようなものから、古くから伝わるアヤシゲな魔導書に書かれている魔術などの、未文化な魔術を広く指す言葉として捉えられる事が多い。

妖術

一般的には魔術と同じような意味合いの言葉として使われる。特に魔術と対比されて使用されるときは魔術は善い事に術を使うもの、妖術は悪い事に術を使うものとされる事が多い。そういった意味から、魔術師が大神秘の奥義に通じているのに対し、妖術師は小神秘しか知らないとされる。

錬金術

錬金術とは、金の亡者が金を得たいばかりに盲目的に行ったいかがわしい技術と理解される事が多いが、真の錬金術は、術者が自らの霊的意識(魂)を「鉛」などに代表される卑俗的なレベルから、「金」に象徴される至高のレベルへと高めようとして行った、自己達成の技術とされるのだ。その要となるのが「賢者の石」であり、これは伝説では鉛に混ぜるとその鉛が金となり、それを食すると不老不死の体になるとされるが、これらは象徴的に理解するべきであろう。

魔女術 (Witchcraft)

「魔女」というと、悪魔と契約したり黒魔術を使ったりするものと思いやすいが、本来はヨーロッパに古代から伝わる先史時代の自然宗教がキリスト教の普及のために弾圧され、歪められたイメージとして後に伝わったものである。例えて言えば、日本の土着宗教の神道が、後から伝わってきた別の宗教に弾圧されて神道の信者達が「悪魔」を崇拝していると濡れ衣を着せられたものに近いといえば解るだろうか?。

本来は、魔女とは豊穣の男神と大地の女神を崇拝する素朴な原始宗教の崇拝者であった。長い間、キリスト教によって悪のものとして弾圧されてきたが20世紀に、ガードナーという人物によってその本来の面が見直され、それ以来、英米を中心に様々な魔女やその集団(コブン)が現れ、活発に活動している。

一般的に、この言葉のイメージから、魔女というのは女性だけしかいないとか、悪魔と契約してとんがり帽子をかぶって箒にまたがって空を飛ぶ醜悪な老婆といったものを想像しやすいが、どれも誤解で、キリスト教のいう悪魔とはまったく関係ないし、男の魔女もいるし、若くて奇麗な女性の魔女もいる。

シャーマニズム

これは体系とは呼べないだろうが、魔術の理解には有益だと思われるので、ここで説明しておこう。人類は、その発祥より常にその身の回りに霊的、神秘的な存在を感じて生きてきた。それらは、人を助けてくれることもあれば人に害を及ぼすこともあった。

やがて、人類はそれらの存在を敬いながらも自分達にとって、出来る限り良い方向に動いてくれる方法を見出だそうとしていく。そういった霊的存在と交流するためには、特殊な霊的能力を持つことが必要とされ、その能力を持つ人物は「シャーマン」と呼ばれる事になる。また、その思想や実践も含めてシャーマニズムと呼ぶようになった。

独創(オリジナル)魔術

古来よりの知識や大系に拠らず、各個人が自らの考えや体験により独自に創造した象徴や技法を元にした魔術を総称して呼ぶ。黄金の夜明け大系など、多くの人が学習してきた大系は、同時に多くの人によりその技術に対する検証も行われる事になる。多くの検証を経た上でそれでも有用だと言われている体系は、その分、信頼性や実効性を認める事が出来るといえよう。

しかし独創魔術の場合は、その人個人でしか扱えない技術である事も多いため、他者には検証できない事が多い。そのため、この独創魔術を使用していると主張する術師の中には実効性の無い、独りよがりの妄想を言っているだけの事もあるので注意したい。ただ、他の人が作り上げた大系では合わないという人の場合、こういった独創魔術の考え方を用いて自分自身に合う大系を作り出せれば、とても効果的な魔術大系となる可能性も大きい。


こちらでは様々な体系を紹介してみた。IMNの研究する対象は上記の分類の中では黄金の夜明け団の魔術体系を中心的に扱うことになる。また、その黄金の夜明け系の魔術を発展させた、クロウリーの魔術も研究対象としていく予定であるので学徒は認識しておいてほしい。


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