元祖黄金の夜明け団の歴史(トラブルの多発。ウェストコットの退団)

メイザースの独裁

マグレガー・メイザース

そんなGD団の活動にトラブルが頻繁に起こり出すのは、1894年後半、エドワード・ベリッジに関するトラブルからである。彼はGD団の有力メンバーの一人であったが、もともと、GD団の間では評判が良くなく、おまけに性愛思想を団の教義と結び付ける活動を始めたために、潔癖家アニー・ホーニマンが激怒。メイザースに抗議と彼の退団を迫る手紙を送る。しかし、メイザースは自分の忠実な信奉者であったベリッジを処分する事はせず、逆にアニー・ホーニマンに怒りの手紙を送る。この怒りの手紙にホーニマンは謝罪文を送り、一度は事が治まるかに見える。

しかし、ベリッジは一向に処分されない、おまけにメイザースは奇行を続けるという事で、不快のつのったホーニマンは、今度は援助をしている金銭的な面からメイザースに文句を言う。しかし、この行為は、メイザースの疑心暗鬼を生む事となり、逆にメイザースは脅迫とも取れる「宣言書」を団の主要メンバー達に回し、自分への絶対服従を強いる。この宣言書に、団の主要メンバー達は簡単に服従する事になってしまうが、メイザースはそれでも疑心暗鬼をやめず、ホーニマンに彼女やウェストコットへの文句の手紙を送る事となる。当然、呆れたホーニマンは、メイザースへの金銭援助を取りやめてしまう。しかし、この事によってついにメイザースは激怒し、1896年ホーニマンを強制退団へと追い込んでしまう。

首領ウェストコットの退団

さらにGD団にとって不幸な事件が発生する。団員の誰かが貸馬車に団の文書を置き忘れたのだが、この文書が警察に届けられる事となり、そこからウェストコットのGD団との関わりが警察の上層部に知られることとなってしまったのだ。公的な職業である検察官に就くウェストコットが、こうした秘密結社と関わりを持つ事を警察の上層部は良く思わず、ウェストコットに検察官を辞めるか、GD団との関わりを断つように指示。ウェストコットは彼の職業を続けていくため、GD団から退団する事となってしまう。

ウェストコットはそれまで、団のこまごまとした事務活動に有能な手腕を発揮していたのだが、彼の退団によって、その事務活動はフローレンス・ファーに一任される事となる。しかし、彼女はこうした事務的な作業は苦手で、以後、GD団の組織は弱体化の一途を辿る事となる。そんな時、ある一大人物がGD団に加入する事になる。彼の名はアレイスター・クロウリー。1898年に彼はGD団員であったジョージ・セシル・ジョーンズを介して、GD団に入団。後に目ざましい早さで、位階を駆け登る。彼はまた、GD団で恐るべき実力を有しながらも、生来病弱であり生活が不安定だったアラン・ベネットに、生活の保証の代わりに自分の師匠を引き受けてくれる事を申込む。ベネットはそれを受入れ、クロウリーと一緒に住みながら、彼に数々の秘教的知識を与えている。

クロウリーの5=6昇進

モイナによるアブラメリンの扉絵

ベネットはメイザースの信奉者であったため、クロウリーも一緒にメイザース信奉者になるが、この事がGD団内部に多かった反メイザース派の反感を買う。また、クロウリーとベネットが一緒に住んでいた事から、彼らは同性愛者であるという噂がGD団内部で流れる事となる。そのため、クロウリーが1899年末に4=7に進み、セカンド・オーダー昇進を希望すると、これらの噂を根拠にし、セカンド・オーダーの内部メンバーに昇進を拒否されてしまう。クロウリーは、自分の置かれた状況を見て取ると、パリのメイザースを頼る事にする。メイザースはその申し込みにこれ幸いと、反抗的なロンドン・メンバーへの皮肉も込めて、クロウリーを独断で5=6に昇進させてしまう。

クロウリーを5=6に昇進させるという強権をやってのけたメイザースだったが、実は彼自身はこの頃、自業自得だが今まで生活費を頼りにしていたホーニマンに見捨てられたため、金のあてが無くなってしまい、様々な形で金策を作る事に必死になっていた。トルコ鉄道株の販売や、魔術書の出版がそれに含まれるが、この頃、有名な「アブラメリン」も出版される事となる。また、パリのボディニエール劇場にて、「イシス儀礼」と呼ばれる儀式の一般公開を行い、好評を博す。

しかしこの頃、ホロス夫妻と出会う事となり、これが彼の後の決定的な破滅の原因となる。ホロス夫妻は詐欺師であり、アメリカ人からGD団の秘密を知り、特にホロス夫人は自らをアンナ・シュプレンゲルと名乗り、メイザースを騙そうと近寄ってきたのであるが、メイザースは見事にそれに引っかかってしまい、彼女に様々な貴重な文書を分け与えてしまったのであった。そして、メイザースは彼女がウェストコットと手紙のやり取りが無かった事を聞き、ウェストコットが秘密の首領であるアンナ・シュプレンゲルとコンタクトを取っていたという話は嘘だったと思い込む。


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