生命の樹について6
ここでは倫理的三角形の次に形成される星幽的三角形とマルクトについて説明しよう。生命の樹の「炎の剣」としての説明は、この項で一段落する。「無」に起こった創造の意志は、「マルクト」において物質世界を現すのだ。
前STEPで解説したティファレトは、次のセフィラ<ネツァク>を流出させる。ティファレトで「物質」へと変容を始めた創造の力は、これ以後のセフィラでは物質としての束縛を強く受けることになる。しかし、物質的顕現へと至ってない創造のエネルギーは、まだ完全には固定化された状態に至っていない。星幽的三角形の「星幽的」とは、物質へ顕現する前のこういった比較的流動的な状態を意味する。
<ネツァク>
ネツァクは白柱に属するセフィラの最下部に位置する。上位のコクマー、ケセドと同属性を持ち、創造のエネルギーはネツァクにおいて物質的世界を目指す「力」としての顕現の最終段階に至ったと理解する事ができるだろう。
ネツァクの基本的色彩は「緑」になる。このネツァクも含む星幽的三角形の3つのセフィラの色は、上位の倫理的三角形、ケセド、ゲブラー、ティファレトの3つのセフィラの色が混ざって出来る混合色である事を、学徒は理解しておくべきであろう。ネツァクならば、ケセドの青色とティファレトの黄色が混じりあわさった色彩となるのだ。また、緑色はゲブラーの赤色の補色として対になる色でもある。これらは、深淵以降は物質化への段階を経るにしたがって、創造のエネルギーに色彩に暗示される要素が深く関わっていくことを示している。また、この各セフィラーの色彩は虹のスペクトルとして、世界を顕現させる意識と関連づけても、いろいろと面白い考察をする事も出来るだろう。
この緑色の色彩にも象徴されるように、ネツァクはこの世界の「自然」の「成長する」諸力を象徴する。それは、ケセドと同様、この世界で拡大する力である。ネツァクにおいては創造的エネルギーは、より物質に近くなりながらも、まだ比較的自由に拡大しようとする流動的な状態にあるのだ。
ネツァクに対応する天体は金星である。金星は一般的に愛や情動を象徴する。創造のエネルギーはここで情動の力を付与される。ただし、ここで示唆される情動とは人間や動物のそれだけを意味するのではなく、もっと根元的な「意識」の段階のものまでも意味する事に注意してほしい。それは、万物に浸透する「意識」である。その万物に浸透する「意識」の段階を示す言葉に、こういったものがある。「鉱物は昏睡した意識段階にある。植物は眠っている意識段階にある。動物は夢を見ているような意識段階にある。そして人間は目覚めた意識を持つ」
ネツァクの別名は「勝利」と呼ばれる。この勝利とは「愛」の勝利である。愛、すなわち他者との同一化に象徴されるようにネツァクでは、創造的エネルギーは引き合い融合する力を経験するのだ。
<ホド>
ネツァクは次のセフィラ−<ホド>を流出させる。<ホド>は黒柱に属するセフィラの最下部に位置する。黒柱の上位のゲブラーと同属性を持ち、創造のエネルギーが物質的世界を目指す「形」としての顕現の最終段階に至ったと理解する事ができるだろう。
ホドの基本的色彩は「オレンジ」になる。これは、ゲブラーの赤色がティファレトの黄色と混じりあわさってできた色彩である。また、ケセドの青色の補色としての色彩でもある。このオレンジ色の色彩にも象徴されるように、ホドはこの世界の「自然」の「老化する」諸力を象徴する。それは、ゲブラーと同様、この世界を縮小・解体へと導く力である。
ホドに対応する天体は水星である。水星は一般的に知性を象徴する。ネツァクで「情動」の力を付与された創造のエネルギーは、ここで「知性」の力を付与される。しかし、ここでいう「知性」の力はネツァクで述べたのと同様に、人間や動物のそれだけを意味するものではなく、もっと根元的な意識の段階としてのものを意味するのだ。知性は発達し分析するという事柄にも繋がる。分析は物事を細かく分けていく行動でもある。ここで創造的エネルギーは分割され、反発しあう力を付与される事になるのだ。
ネツァクでは、まだある程度の自由さを持っていた創造のエネルギーはここで、物質的顕現へ向けて形を整えられて、ほぼ固定されることになる。しかし、イェソドにおいて最後の変容を経るまでは、まだ星幽的三つ組みとして星幽の段階に留まってもいるのだ。
<イェソド>
ネツァクは次のセフィラ−<イェソド>を流出し、第3の三角形を完成させる。イェソドは中央の柱に位置し、上位のティファレトと同じ属性を持つ。ケテル、ティファレトがそうであったように、イェソドにおいてネツァクとホドの両極の力は調和し、創造のエネルギーはここで物質的顕現へと最後の変容を経験するのだ。イェソドの基本的色彩は「紫」になる。これは、ケセドとゲブラーが混じりあわさってできた色である。また、ティファレトの黄色の対局、補色としての色彩でもある。
イェソドは「基礎」の意味の名を持つ。これは、我々の物質的世界を築いている直前の段階の「土台」を表わすものである。それはまた、西欧神秘伝統では古くから、全てに偏在し神秘的に流動する力より成り立つ「星幽界」とも呼ばれる世界も意味するとされた。ここはアニマ・ムンディ、世界の魂、ユング心理学に言う集合的無意識であり、イェソドはその世界に属す心霊的現象も司る。
イェソドは、様々なイメージが集う場であり、幻想、忘れ去られし記憶の容れ物でもある。これらを理解するとき、学徒はこのセフィラの対応する天体「月」の象徴の理解を得るだろう。イェソドは、物質界へ顕現するための準備を終えた、創造的エネルギーの最後の検閲機構でもある。
<マルクト>
イェソドは次のセフィラ−<マルクト>を流出する。ケテルから溢れて来た創造のエネルギーは、このマルクトにおいて、我々が通常知覚する物質的世界の形に顕現を行い、その流出を一段落させる事になる。燃える剣の道を降りきたりた創造的エネルギーは、一個の存在と成り物質的世界を「経験する」事になるのだ。我らが住まいし「王国」こそ、このマルクトである。
ここに創造のエネルギーの変容の結果が見られる。創造のエネルギーは幾度にも渡り対立する力を経て、緊密な結合状態に到達する事になる。この均衡が達成されると、ここで安定性、慣性が獲得されるのだ。それは我々の住む物質的世界であるが、しかし同時に生ける物質の根本的力、四大の精霊たち、四大元素の存在する場としての物質界の根本的実体も表す。その四元素は物質界の四つの状態にも通じ、地は「個体」、水は「液体」、風は「気体」、火は「プラズマ」として示される。
マルクトは3つの三角形から独立した存在でありながらも、それら全てのセフィラの影響を受け入れ、同時に4つの色彩で現される唯一のセフィラである。この色彩は生命の樹の図上ではマルクトの円が4分割される事によって示される。その一番上の色彩はレモン色である。これは、ネツァクの緑色とホドのオレンジが混じりあって出来た色である。右側の色彩はオリーブ色である。これは、ネツァクの緑色とイェソドの紫色が混じりあって出来た色である。左側の色彩は小豆色である。これは、ホドのオレンジ色とイェソドの紫色が混じりあって出来た色である。そして、下部の色彩は黒色となる。これは全ての色彩が混じりあった色となる。これらの四つの色彩は四元素に通ずるものである。
炎の剣としてマルクトまで降り来たりた創造のエネルギーは、物質的世界を経験した後、「叡智の蛇」として折り返しを始め上昇原理へと移行する事になる。秘教の学問では、「マルクト」はマラソンなどにおける折り返し地点の「ブイ」を意味するものとしても知られるのだ。この上昇原理たる「叡智の蛇」は密儀への参入を意味するものであり、学徒は当教育コースにおいても、後にその学習を始める事になるだろう。
□学徒は上記を理解・記憶すること。この学習のポイントをまとめると下記になる。
・ネツァク・ホド・イェソド・マルクトの意味を記憶する事
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