ユング心理学について4

ここではユング心理学で解説される「投影」という事柄を元に、統合神秘行で理解しておくべき、「人間の人格」というものについての解説を行っていこう。

イメージの投影

人間が他者と交流するときには、他者の人格や役割を主な基準にして行動するものである。例えば、「あの人は優しい人だ」とか「あの人は腹黒い人だ」。「あの人は警察だから規律正しくあるべきだ」「あの人は先生だから誠実であるべきだ」という事を考えて、人は他者と接し行動するものである。神秘行界でもよくある「あの人は私の師匠だから、全てにおいて超越しているべきだ」というのも、その一つであろう。

こういった「イメージ」を通して、人は他者と交流を行うのだが、往々にして、人は、そのイメージを元にした他者の人格こそが、その他者という人物の人格全てだと思い込んでしまいやすいものである。人間という生き物は、本来、あまり難しく考えることを好まない存在である。人間が他者を理解しようとする時は、こういった単純な「イメージ」を使った方が、気楽にいろんな人との交流をしやすいからである。

しかし、実際はそのイメージというものは、それを感じる自分自身の心の内にある同様の性質の一部分を、その他者にイメージとして「投影」、つまり自分の心の中にある、一面的なイメージを単純にその他者にたいして重ねているに過ぎないという事を、学徒はよく認識しておくべきであろう。

全体的な存在

人は、一面的なイメージで捉えれる存在では無いものなのだ。例えば、会社では仕事にとても厳しく、よく部下を怒鳴り散らしてばかりいる人が、家庭に帰れば子供を溺愛し凄く甘い面を見せることもあるだろう。友達の間では控えめだが、恋人には凄く多弁になる面を見せるという人もいるだろう。もちろん、全ての人に対して同じ面を見せるという人もいるかもしれないが、基本的には人間という存在は、社会において、他者に見せる顔や面というものは、その「関係性」によって違うものなのである。

そして本来、人間というものは「全体的」な存在であり、一人一人の人間は様々な人格の側面をあらゆる等しく持っている存在なのだ。完全な悪人というものはいなければ、完全な善人というものも存在しない。優しいだけの人もいないし、残酷なだけの人もいない。誰しもが、その心の奥に「悪」とされる面を持っているし、また「善」とされる面を持っているのである。生来の資質や傾向に加えて、その人が育ち、生活している環境と教育によって、どういった性格の側面が表に現れやすいかという事はあるが、基本的には人間はその関係性において、様々な人格を部分的に出すものなのである。

神秘行の世界での注意点

上記の事柄は、神秘行の世界でも特に弟子と師匠、学徒と教師などの関係において、よく注意しておくべきものであろう。もちろん、この教育コースにおいても気をつけてほしい事柄だが、神秘行で何らかの修行をする為に弟子になった学徒は、その師匠を完全な性格、絶対的な存在だと思い込みやすい。しかし、神秘行の師匠であっても、肉体を持った存在である以上、長所もあれば短所も持った「人間」である事を忘れてはならないだろう。弟子は師匠のそういった人間的な様々な面を客観的に見て、優れた面は見習い、劣った面は反面教師にする考え方が必要なのである。

そして、統合神秘行を学ぶものは、その人生という学習においても、こういった点を踏まえて行動する事が必要であろう。人生の様々な場面において他者と交流するときには、他者を偏ったイメージ、一面的なイメージでとらえてしまうことは避けるべきであることを、よく心がけておくようにしておいてほしいのだ。


□学徒は下記を理解・記憶すること。

・「人間」は全体的な存在であることを理解すること
・人間は、その心のうちに等しく「善」と「悪」とされる面を持っている事を理解すること。


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