生命の樹について3
西欧神秘伝統において「生命の樹」という図形は、その内に様々な秘教的考え方を複合して示していると考えられている。その一つの代表的な例が「炎の剣」という考え方だろう。この「炎の剣」とは、古の秘教の学徒達が捉えた、神が世界(宇宙)を創造する過程を、生命の樹の図形を使って説明するものである。
「炎の剣」
その考え方では、まず世界の作られる以前を「有」ですら無い「無」、すなわち否定としか説明することのできないものとして「否定的三重光」という形で示す。その後、神が創造を意図し「無」から「有」へと位相が変換し、全てのはじめにケテルが形成される。そして、「炎の剣」と呼ばれる形でセフィラが次々と創造され、最終的にマルクトとして我々の存在する地球(物質的世界)が現れるとしているのだ。
この「炎の剣」としての世界創造の考え方では、世界を創造する為に必要な原理が「生命の樹」の図の内に2つ示されているとしている。まず、一つめは「力(エネルギー)と形」という相反する両極の原理である。この原理は生命の樹の図では、左右の両極に示される事になる。「生命の樹」の左側(図に向かってみると右側)に位置する白柱が「力」、右側(図に向かってみると左側)に位置する黒柱が「形」を象徴するものとしているのだ。
次に生命の樹が示す原理は「霊(力)と物質(形)」の両極の原理になる。こちらは、「生命の樹」の図では上下の両極に分けて考える見方を取る。生命の樹の中心のセフィラであるティファレトより上方へ行くに従って「霊」としての意味合いが強くなり、ティファレトより下へ行くに従って「物質」の意味合いが強くなると考えるのだ。
余談だが、この「炎の剣」で説明される「力と形」の原理は、他の様々な神秘行でも重要視されている「光体(ダブル)」の行の原理にも繋がるところが多い。自分も長い間光体の行を続けてきたが、たまに、この「炎の剣」について考え直したりすると、その中で説明している事が光体の行の機微を色々と示唆していた事に気づく事も多かった。
ここからはしばらく、生命の樹について、世界創造を示す「炎の剣」として学習していってもらう事になる。その前にこの点については学徒に注意しておいてほしいという事を述べておこう。それはまず、この「炎の剣」の説明を読んだだけで、「生命の樹」について理解したと思ってしまわないようにする事である。先にも記したように現在、西欧神秘伝統では「生命の樹」は様々な秘教的概念が組みあわさってできた複合的概念による図形となっている。すなわち「炎の剣」以外の様々な概念も学習しないと、「生命の樹」についての理解は不可能と言えるのだ。
ただ、いきなり様々な概念を一度に説明しても、この段階の学徒には理解は不可能であると思われる。よって、まずこの段階では学徒には生命の樹の代表的な考え方である「炎の剣」から、説明していくことにするのだ。
また、この「炎の剣」の説明がそのまま現在、科学的に言われている世界(宇宙)創世の説明に繋がるとは思わないようにするべきであろう。先にも書いたが、この「炎の剣」は古の学徒が、その意識で感じ捉えた世界の創造のプロセスを「生命の樹」の図形を使用して説明したものである。その考え方は、我ら現代の学徒にとっても「意識を制御する」のに、とても有用な理論となるものなのだが、科学の語る世界創世とはいろいろと違っているところも多い。我ら、現代の学徒としては基本的には、この「炎の剣」の考え方は意識内における世界創世の捉え方であると言うことを理解し、意識を制御する為の知識を学習するものとして捉えておいた方が良いだろう。ただ、オカルト・カバラは時代が進むにつれて、様々な最新の科学的理論を取り込んでいる。その為、この「炎の剣」を理解してから、最新の宇宙創世についての科学に関する理論を学んでみると、いろいろと啓発される事も多い事は示唆しておこう。
このSTEPでは、その「炎の剣」のうち、否定的三重光からケテルに至る段階を説明していく。
<否定的三重光>
AIN 0
生命の樹の図上では、全ての始まりとされるケテルの上に、さらに3つのヴェールをかけている。これらは「否定の三重光」と呼ばれ、この世界の始まりの、さらに「前の段階」を示すものである。少し考えてみるだけでも解ると思うが、存在の始まりの「前」というものは人間の通常の意識にとっては理解出来ないものである。その為、生命の樹の図でも「否定」として示しているのだ。
その最初に示される<AIN(アイン)>は、万物すべての原因なき原因と言われる。それは0(ゼロ)に象徴されるように存在に非ず、「無」でありながら万物全てに遍くもの、創造の前段階とされるものである。やがて、「それ」が「それ自身」を意識せしめようとするとき、「無」は「無限」へと自らを収斂せしめ、<AIN SPH(アイン ソフ)>「00」へと移行する。「無限」はまた、その志向する意識により顕現の前段階「無限光」、否定光の大海<AIN SPH AVR(アイン ソフ オウル)>へと移行する。
これらは未だ顕現せざる3つの段階であり、この否定の段階においては、すべての時間および場所の概念は意味をなさない。また、上図では図示としての都合上、これらの変化を段階的に位置を変えて描画しているが、実際は「無」という意味において、それも理解できないものとして捉えてほしい。
<ケテル>
遍く未顕現の「無限光」において発生した、「ラシット・ハ・ギルガリム」と呼ばれる渦巻く意識は無限光を収斂させ、それが極限に至った時、そこには大きさのない中心の「点」=<ケテル>が顕現する。「無」から「有」へと位相が転換される、決定的な変化と言えるだろう。
その顕現した「点」は我々には測りがたい存在であり、霊的エネルギーの中心、顕現する万物の源である。この万物の創造の源であり、その中に以後のセフィラ全てを含みたるケテルこそは、全ての「第一者」たる至高の「王冠」の名を受けるに相応しいものであろう。これまで「否定」でしか測れなかった、その存在がここに至ってようやく顕現により、我らの意識にその姿を垣間見せるのである。上図では図示の都合上、ケテルに大きさを付与しているので注意されたし。
ケテルは伝統的に、その照応する天体を「原初動の渦巻き」とされてきた。それは、何もない宇宙空間から星が誕生する様をあらわす渦巻き為す天体なのである。また、「原動天」というものにも対応する。この「原動天」を理解するためには、西欧神秘伝統で古くから用いられた、この世界が各天体によって階層上に構成されているとする概念を、理解する必要があるだろう。それはまず、主(唯一神)や天使達の住む世界(天国)が天上の一番遠くに存在する事を考えるところからはじまる。主はこの世界を顕現させたもうと、この物質世界が構成されるための、原初の動きのはじまる天界=「原動天」を作られた。次にその中に黄道十二宮や恒星達の住まう天界である「恒星天」が作られ、以後、順番に一番最外縁の惑星である土星が対応する土星天、そして木星天、火星天、太陽天、金星天、水星天、月天と来て、そして我らの住まう物質世界である地球が作られたとするのである。生命の樹の各セフィラはこれらの階層上の天界にも対応し、ケテルは先に述べたように原動天に対応する。
ケテルの基本的色彩は創造の始まりを表す純粋な白き輝きである。また、ケテルに対応するユダヤ教の聖なる言葉(神名)は<AHIH>=「在りてあろうもの」とされる。これはケテルより生み出される後の自然の創造が静的なものではなく、あらゆる時間において顕現する全てが変化する力を現し続けていく事を意味する。
しかしケテル自身はその、あらゆる変化の源の一切を内に含みながら「点」という状態にて、無形の存在として限定された、時間を超え自由に在り、ただ、創造の意志を溢れ含みたる純粋なる「神の火花」なのである。
□学徒は上記を理解・記憶すること。この学習のポイントをまとめると下記になる。
・否定の三重光の名前を覚えること。
・否定の三重光のケテルへ至る流れを理解すること。
・ケテルの意味を記憶する事
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